【若手家族心理学研究/家族療法家に聞きました】

CB798982-172B-42E7-9237-13565A2DBD5D        北海道医療大学 金澤潤一郎先生

                      (御所属はインタビュー当時のものです。)

                             インタビュアー 神奈川県立保健福祉大学 生田倫子

 

≪研究領域・テーマを教えてください≫

 私の専門は大人の発達障害の認知行動療法です。その中でも注意欠如・多動症(ADHD)の研究をしています。もともとは大人のADHDに対する介入研究をしていました。大人のADHD傾向をもつ保護者の研究やスポーツ心理学に大人の発達障害の知見を入れた研究なども行っています。自閉スペクトラム症(ASD)傾向をもつ大学生の援助要請行動についてもゼミ生と一緒に研究しています。

 臨床では、ADHDASDについて本学のここの相談センターで地域の方々対象に臨床を行っています。また、児童精神科で発達障害児の子育てをしている母親や父親支援を集団形式で行っています。

 

≪どのような考え方、技法を使っていますか≫

 私は認知行動療法(CBT)が専門です。その中でも自分のアイデンティティとしては行動療法です。理論としては、応用行動分析の視点で臨床を行っています。最近では、アクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)の研修にも参加して臨床に取り入れています。

 

≪具体的な臨床について≫

 学内のこころの相談センターでは個人形式の臨床ですが、児童精神科では発達障害児の保護者中心の座談会やお母さん教室を集団でやっています。月に1度で、お母さんが5、6人。保護者が自由に発言することを重視しており、その話の中でお母様方の努力や工夫や意図を探してきます。また、保護者同士が患者ではなく、共同支援者であるという役割を担っていくことが大切だと思っています。つまり、保護者を専門家という位置づけで考えており、相互支援という枠組みを重要視しています。

 お母さん教室では、子育てに困っていると訴える保護者の今出来ていることの確認、最初から全部変えようとせず、きちんと詳細をお話いただいた上で、少しだけ変えることが出来る目標を目指していくことにしています。

 

≪先生の恩師は?≫

 恩師は坂野雄二先生。坂野先生がいらっしゃったので北海道に来ました。大学でアメリカに留学していて、日本に戻るつもりだったので、多くの先生方の本を読みました。研究も臨床もやっていて、しかも臨床のために研究をするという視点が強く感じたために、坂野先生から教えを請いたいと北海道医療大学に来ました。一言では言い表すことは出来ませんが、坂野先生からは臨床に対しての観察力、真摯な姿勢などを学ばせていただきました。

坂野先生は、「効用と限界」と言う言葉をよくお使いになります。専門家ですという人なら、効用と限界をきちんと言えなければならない。全部できるというのは詐欺師に近いと思います。

 

≪今のテーマに至るまでに影響を受けたこと≫

SAD(社交不安障害)を卒論で扱っていました。もともとCBTは不安症やうつ病が得意分野なのですが、なぜか治らない人たちがいます。卒論後に時間があったので脳画像研究の論文を乱読していて、「もしかすると発達障害が大人にもあるんじゃないか?」と気がつきました。そこで論文検索をしてみると、大人の発達障害というのがあるということがわかりました。研究も当時は少なかったので、大人の発達障害の当事者会に行って当事者の皆様から実態を学ばせていただいたことが臨床や研究の土台となっています。15、6年前にたまたま、全国規模の当事者会の本部が札幌にあって幸運でした。

 そこでは、精神科を受診してもうまく対処されないことで医療不信になっている方が多くいらっしゃいました。当時は大人の発達障害についての知識が普及していませんでしたしね。自分はギリギリ発達障害ではないので、当事者会にいると「自分が少数派になる」という感じも体感できました。

 

≪心理療法に出会うきっかけになったのは?≫

 大学の法学部を卒業しました。法律は、人を助けることにはつながるがダイレクトにその人に何かできるわけではないです。自分の性格を考えると、もう少し人とダイレクトに繋がりたいと思ったんです。自分の長所を生かすには?と考えながら色んな職業や学問を調べていると、心理学という分野があるんだなと。20年前は、臨床心理学というのは日本と海外とは差があった。せっかくなら一番進んでいるところで心理学を学びたいと思い、バーモント州のセントマイケルズカレッジにて学びました。ロスやニューヨークは日本人が多いので、日本人が少ない地域に留学したかったんです。あと寒冷地で体育館が充実しているので好きなバスケットボールができるな、と。留学中に、9.11のニューヨーク同時多発テロ事件がありました。大学内でもアメリカ人以外を排除する雰囲気になって、偏見や差別的な扱いを受けるなど少数派としての経験をしたことも日本ではできない体験でした。アメリカ人でもイスラム教に改心した友達がいたり、留学生が怖いと言われたり、ずいぶんと友人とディスカッションしたのも、今となってはインパクトがある体験でした。

なぜCBTに興味を持ったのかという点では、心理を学んだのがアメリカの大学だったので、まずCBTは学ばなければならなかった。そのため、必然的にCBTを専門として選択しました。

 

≪支援において大事にしているところ≫

 家族支援を考えるときに大事に思っていることは、保護者は子育てうまく行っていない、悪いことが起きていると思っている。しかし、変化をさせようする前に、現状でもできていることを丁寧に伝え返すこと。認知行動療法では部分強化と言いますが、変化する前から出来ていることを共有することが重要だと思っています。

 そしてその人の世界観に入ること。私が思う下手な臨床家って、すぐに「あなたこういう所を治したら」って言う。それではセルフコントロールに繋がらない。その人の大事にしているところとか価値を大事にしながら、少しだけ今までと違うことをやっていくことだと思います。

 CBTってまずは機能分析をしなければならない。変わることを考えるのではなくって、今の現状、困り感を細かく理解しなければならない。この人はこういう世界観をもった人なんだなと。理論とか技法が主役になっているセラピーはしてはならない。そのクライアントが主人公にならないと。

学生時代には特に坂野先生やありとあらゆる先生の研修や講義を受けまくった。あとは、自分でやっていることの内省、学生に陪席してもらった時の話し合いも大事だし、講演する際にも技法よりも自分の臨床で大切にしていることを内省して話させていただいています。

 

≪心理療法を学ぼうとしている学生や関心をもたれている方へ≫

 アメリカで記憶に残っているのが、「どんなに疲れている時も楽しめる趣味を持っていなさい」と言われた。今でもそれって大事と思っています。僕は音楽やバスケットボールが好き。一個のことを浅くではなく深く知ることって臨床にも活かせると感じています。

 NBAで、プロで超一流の中でもオールスターに選ばれるか選ばれないかという違いをずっと見ていたら、結局基礎の力なんだなと思った。キャリアハイのプレーはNBA選手なら誰でもできるのですが、結局、数多く使うのは基礎的なプレー。長く続けることができる選手は基礎の力がとてつもなく強い。それが心理療法なら、例えばCBTなら応用行動分析とか、それぞれの学派の基礎理論をしっかりと身につけていることが大きいと思っています。

 

≪大学院生におすすめの勉強法≫

 修士課程や博士課程の時は大人の発達障害の当事者会に頻繁に行っていました。当時は当該領域の論文も世界的に少なくて、クライエント像をイマイチ把握できませんでした。このままでは役立つ臨床も研究もできないと感じていました。その他にはあらゆる疾患や問題をもつ患者さんが書いた本や色々な心理療法や薬物用法を用いた事例を読み漁っていたことをよく覚えています。参加できる限りの研修に行って、研修から学ぶだけでなく、参加者の方々と話せることも楽しみにしていました。常にクライエントさんや臨床をイメージしながら、自分に必要と思うことを学んでいって欲しいです。

 

********************************************

 

Copyright © 2020 家族心理.com. All Rights Reserved.
Joomla! is Free Software released under the GNU General Public License.