家族心理学研究者の第一人者にインタビュー    

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東京福祉大学教授 平木典子先生
日本家族心理学会会長

インタビューアー  武蔵野大学 生田倫子








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研究テーマ

(生田)先生の御研究のテーマについて教えてください。

(平木)今は家族の関係の中での対人関係の作り方壊れ方等、変化を起こすというところを中心にやってきました。今後はそれを会社や友人関係にまでひろげていく必要があると思っています。関係というところで起こる問題を、システムという考え方において発展させていきたいと思っています。

(生田)平木先生は、アサーショントレーニングを発展させていらっしゃいますね。

(平木)アサーショントレーニングというのは、自己表現や家族の自己表現をきちんとすることにより違いを表現し、認識できるようにすることです。このアサーショントレーニングを用いて心理教育プログラムをつくることで、コミュニケーション、ひいては家族をかえていくことができるのです。この方法は、大きな意味での介入になります。そして、予防的にこのトレーニングのプログラムをつかっていくことも可能です。

(生田)具体的にはどのようなところで実践されていますか?

(平木)子育て支援においてです。このトレーニングを受ける前と後を調べていけば、効果がわかってくると思います。しかし、子育て支援も現在は暗中模索ですね。心理療法にいかないまでも、必要そうな人へのつなぎが心理教育プログラムになりそうです。

(生田)平木先生は、近年インテグレーション(統合)という概念を唱えていらっしゃいますね。

(平木)そうです。臨床理論・介入法の統合を考えています。これは、臨床のより効果的な実践はいかにあるべきかという問題意識から生まれています。例えば、心理療法の諸理論は何を追求しているか、それぞれの長所と短所は何か、問題や症状の変化には人間の認知・行動・感情の相互作用がどのように関わっているか、そのような視点から現存の介入法がどのように整理、統合されるかといったことです。

問題意識

(生田)どのような問題意識から活動していらっしゃいますか?

(平木)コラボレーション(協働)とはいかにあるべきかということです。例えば子育て支援において、セラピスト、お母さん、保育士が知っていることをコラボレーション(協働)して、それぞれの「専門性」を活用するのです。また、父を子育てにどのように巻き込むか、というようなプログラムなどにも、今やっている人も、これからやるひとも、専門家も、一緒にやっていくというプログラムをつくりたいと思っています。問題をかかえるちょっと前で予防的にできることはないか、というのが問題意識です。保育士、児童相談所、心理職など、専門家の連携の助けになるためにも、コラボレーションの精神をつたえられたらと思っています。

(生田)最初から家族に問題意識がおありだったのですか?

(平木)最初は青年期のカウンセリングが関心事だったのです。自立がテーマです。自立が困難な方へのカウンセリングをする中で、家族がきになってしょうがなくなりました。家族が自立を邪魔しているのではないか?と。つまり、家族を理解しないと、支援できないのではないかと思ったのです。そういう問題の70%から90%は関係性の問題があるのではないか、と考えています。青年期のクライアントを支援するために、家族との相互作用を理解し、家族に変化が起こる必要があります。そこから、心理教育プログラム、家族療法、とつながってきましたが、現在はカップルカウンセリングが一番面白いですね。

影響を受けた人物について

(生田)先生の師、また影響を受けた人物は誰ですか?

(平木)大学院の修士課程でミネソタ大学のウイリアムソンという師につきました。キャリアカウンセリングの先生です。青年期の支援からキャリアへと幅の広い先生でした。人間がどのようなキャリアを選ぶのか、どのようなキャリアをいきるのかということについて、キャリアというのは単なる職業という意味ではなく生き方であると考えていた先生でした。影響を受けたのは「みなさんがカウンセリングするときに、相手をその社会を適応させようとしてカウンセリングするな。社会が間違っているかもしれない。もしかしたらその人が革命家になるというキャリアだってあるということを考えて欲しい。」ということに影響を受けました。視野の広さを感じました。

(生田)家族支援において影響を受けたのは誰ですか?

(平木)あえていうならナージですね。多世代理論を提唱した人で、文脈療法の創始者です。「多方向に向けられた肩入れ」という考え方と方法を残しました。

(生田)どのようなところに魅力を感じたのですか?

(平木)どの人に対してもきちんとひいきをして公平であろうとする姿勢です。あなたは目の前に一人のクライアントとあっているがその人の背景には子どもとかこれから生まれてくる孫にも影響を与える。それを考えて仕事をしなさい、という人です。
 私は個人療法から家族療法に興味が移行したので、ナージが多世代を対象に家族療法をするのは画期的と思えたのです。その当時ミニューチンの方法論が、家族を理解する先鞭をつけていました。しかしナージを読むと、ああこのときすでにこんなことをいっていたんだと思うのです。


(生田)ナージのどのような言葉が一番印象に残ったのですか?

(平木)10年前に丸一日彼の研究所に会いに行きました。パーキンソン病で、身体も声も自由ではありませんでした。そのときの印象的な言葉は、「ギブ・アンド・テイク」ということを繰り返し言いながら、最後に「でも与えることができる人間は一番すばらしい」とおっしゃった言葉です。ああそういう心境でいらっしゃるのだなと思いました。それから私は「許す」ということはどういうことが考えるようになりました。

セラピーに対する姿勢

(生田)先生にお話を伺っていて、弱者にどう寄り添うかという問題意識があるのでは、と感じたのですが、いかがですか?

(平木)そうです。自分も含めて、だれもが弱いところを持って生きている。その弱いところがあらわになるような状況に誰もがなりうるのです。そのときに、味方になることができるということが大事だと思うのです。

(生田)日本的な「お互い様」という姿勢がおありになるのですね。

(平木)本当にそうです。弱い状況は誰もがなりうる、天下の回り物でしょう。たまたま助ける立場にいるときは「お互い様」という姿勢で助けたい。今は「家族療法家として助けることができますよ」ということを自分から発信して、その結果困った方が来てくださることも歓迎するという姿勢です。

(生田)それでは先生がアサーション(自己主張)トレーニングに関わられているのは、弱者の立場に立たされた人がどのように自分を出していくことができるか、という問題意識なのですね。

(平木)全くその通りです。DV等、家庭で理不尽な状況に置かれている女性の声をどのように取り戻すかという思いもあります。また、カウンセリングに興味を持ったのも、キャリア支援において、キャリアが選べないというのもそのひとつであるからです。

(生田)社会問題で気になることはありますか?

(平木)いろいろありますが、やはり「キレル子」「キレル状況」がこんなに広がっているのは気になります。心理学的に言うと「キレル」と言うのは怒りが蓄積されているということでしょう。その怒りが一定の人に向かうというのは、愛憎という言葉がありますが愛の反対が相手に向いているということですから、まだ救いがあるような気もするのです。しかし、その怒りが不特定多数に向かうというのは、やりきれない。また不特定多数に向かうような八つ当たり的な怒りが特定の人に向かってしまっていると思うときもあります。では、どうしてこのような状態になるのか、それは「世の中に存在していていい」という感覚がないからかもしれない、と思っています。承認してくれるひとがいないのではないか。やはり、家族や周囲の環境が「世の中に存在していていい」というメッセージを与えることができるということが必要です。

推薦図書

(生田)お勧めの本を教えてください。

(平木) 梨木香歩の「ペンキ屋」。絵本です。梨木さんというのは、人の心の微妙なところがわかるひとだなあと思うのです。この絵本は、追及し続けた色のペンキを塗るのに成功したペンキ屋さんの話です。結果よりもそのプロセスというのが、人との関わりの中で生まれて来ている、そこがすばらしいのです。

(生田)御著書の中からも一冊取り上げてください。

(平木)「新版 カウンセリングの話」平木典子 朝日選書。これは多くの人が読んでくださってよかったといってくださる本です。

家族心理学を学んでいる方への一言メッセージ

(平木)家族って一番身近な問題が出てくるところ。そういうことに関心があったり自分の家族について考えてみたい人にちょっと客観的に見れる視点を与えてくれます。人間関係の問題というのは避けて通ることはできません。人間を関係という視点から理解しようとおもったら家族心理学を学んでみてください。
 関係に巻き込まれた人は自分たちの関係をみることができません。また人間関係の部分で悩んで援助を受けたいと思っている人は、家族を援助するプロフェッショナルとしての家族療法や家族心理学の視点が助けになります。

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