【家族心理学研究者の第一人者にインタビュー】

fujitahiroyasu帝塚山学院大学大学院 教授

藤田 博康  先生

(先生の御所属はインタビューがされた当時のものです。)

インタビュアー

喜多見学


 

①先生のご領域・ご研究テーマを教えてください。

(藤田先生)いわゆる「研究テーマ」というようにアカデミックにはっきりしているわけではないんですけど、昔からずっと考えてきた事は、人ってどうしてこころを病んじゃったり、苦しくなってしまったりするのか、そこからどんなふうに癒されていったり、その中を生き抜いていくのかっていう事なんです。根本にあるのはいつもそこで、研究や実践はもちろん、毎日がそのような関心を持って進んでいるっていう感じです。

(喜多見)そうすると臨床の範囲やターゲットが先生のご研究のテーマになっているんですね。

(藤田先生)そうです。もともとの関心がそこにあって、そのことが臨床心理学や心理学を勉強しようっていう動機になったので。

 

②この領域に興味を持たれたきっかけを教えてください

(藤田先生)ぼくはあんまり自分が世の中をうまく生きられる人だとは思ってなかったんです(笑)。今もそう思っているんですけど(笑)、子どものころからいろんなことを考えたり悩んだりするタイプで。最初は「どうして人ってこんなにいろんなこと考えたり悩んだりするんだろう。」っていうところからはじまって、「どうやったらそこから、癒されたり、前向きに生きられるんだろう。」っていう関心を持ったことがきっかけだったとは思います。

(喜多見)では、最初の関心が今も残っているっていうことでしょうか。

(藤田先生)はい。それはずっとですね。形はずいぶん変わってきていると思いますけど。

(喜多見)ではそこから「心理学」っていう分野に入っていったのはどんなきっかけがあったんでしょうか‥。

(藤田先生)それでも、もともと心理学やろうと思っていたわけではなかったんです。ぼくは最初は理系で、確実にきれいな答えが出る世界が、どこかでいいなって思っていた。でも大学受験の頃、浪人中なんか、そういうことに疑いがでてきちゃったんですね。多分いろんなことに悩んだり困ったりしていたんだと思います。そのころに、河合隼雄先生の本を読んだんです。何冊か河合先生の本を読んだら、先ほど述べたもともとのテーマなんですけど、人ってどうして悩んだり、苦しんだりするのかっていうのがなんかわかるような気がしたし、自分も他人も含めて癒されるっていうか、前向きに生きられるっていうか、つまり広く言えば役に立つ、という気がしたんです。それでこういう勉強をしようっていう気になりはじめて、その頃からですね。

 

③先生の師は誰ですか?また、影響を受けた人物を教えてください

(喜多見)じゃあ影響をうけた先生というのは河合先生ですか?

(藤田先生)はい、最初はやはり河合先生の影響がとても大きかったですね。卒業論文の指導教官が河合先生でした。でも、ぼくは学部を卒業してすぐに働いてしまったので、それほど密に教えを受けたということではないんですけれど。

(喜多見)80年代というのは、日本では未だ臨床心理学の始まりで、心理臨床学会もできたばかりの頃でしたね。心理学をやる人っていうのはまだ珍しかったのではないのでしょうか?

(藤田先生)そうかもしれないですけど、最初からカウンセラーやりたいっていう明確な目標をもって入ってくる人もそこそこ多くなってきていた時代だったとも思います。ぼくはそういうわけでもなかったんですけれど。

(喜多見)では先生の師事された方で、もちろん一人に絞っていただかなくてもいいので、影響を受けた方を教えていただけますか?

(藤田先生)はい。仕事に就いてからはずっと平木典子先生にいろんなことでお世話になって、面倒を見ていただいたので、私の心の中では平木先生が師だと思っています。先生がそう思っておられるかはわからないんですけど(笑)

(喜多見)一番弟子とかそういった感じかと‥(笑)

(藤田先生)いえいえ、そんなことないです(笑)。先生はとてもフェアな人だから、もちろん一番とか二番とかお考えにならないだろうし、あまり上下関係で見るというよりも、一緒に仕事やセラピーをやる仲間だと思ってくださっているような気がするので。ちょっと言いすぎかもしれませんけど(笑)。でもだからこそ、本当に師として尊敬できる先生です。

(喜多見)師として影響を受けたというのは理論とかだけではない?

(藤田先生)もちろん理論的に影響を受けたのは間違いないんですけど、それだけじゃないところのほうが多いです。人間観であったり、臨床家ってどういう人であるべきかというところであったり、人に対してはどんなふうに接するべきかというような、当たり前のようですがとても大切なことを本当にたくさん教わってきた気がします。

(喜多見)平木先生に師事をして、先生は心理療法家としてどう影響を受けましたか。

(藤田先生)一言で言うと自分の可能性や、臨床の幅がとても広がり、柔軟になったと思います。最初はやっぱり河合先生の影響が大きくて、ユンギアンというか、河合先生の心理学からはいって、それが魅力的で、無理だとは思いつつも河合先生のような臨床家を目指して頑張っていたんです。でも、学部を出てすぐに働かなければいけない状況だったので、心理学や臨床心理学と関連のある公務員の仕事とかがいいかなと思って家裁に入ったんですよ。最初は、ユングやロジャーズのオリエンテーションを意識して何年か頑張っていたんだけど、それだけだとすごく苦しくなってきた。どこの実践現場でも多かれ少なかれ同じようだと思うんですけど、家裁って、家族の問題もあり、本人の問題もあるというような、いろんなことをしなければいけない現場なんですね。だから個人療法的な視点だけだと当然、無理があるんです。でも、当時は自分の能力が低いからとか、やっぱり自分が向いてないから思うように役に立てないんだとか思ってしまって、とても苦しかったことがありました。でも少し広い視野で、つまり家族療法とか認知行動療法とかも含めたアプローチに目を向けてみると、いろいろな理解や援助の方法があってよいんじゃないか、現場で心理臨床をやる上では、クライエントさんや対象に合わせた、よりフィットしたアプローチをしなきゃいけないんじゃないかという方向に考え方が変わっていったんですね。そうやって考え方が柔軟になっていくプロセスにおいて、平木先生との出会いの影響がすごく大きかったです。とにかく考え方が柔軟になりましたし、もともとのテーマでもある、人が癒されるとか、人が援助されることの可能性をもっともっと広い意味で考えられるようになったと思います。

(喜多見)柔軟になったことで、より先生のテーマにフィットすることになったんですね。

(藤田先生)そうですね。

(遠藤)学び始めのセラピストにとって、先生のようにひとつの理論の見かたに縛られず、クライエントや対象に合わせてよりフィットしたアプローチをするっていうのは難しいというか、ごちゃごちゃになってしまうような気がするんですけど‥。

(藤田先生)そうかもしれないですけれど、でもそこをガイドしてくれるのは、クライエントのリアリティなんじゃないかなと思っています。はじめに理論ありきのところから考えるとどうしても、たとえば分析の理論に家族理論の視点を足そう、とか難しいことになってしまうんだけど、僕は現場から入った人間なので、そのクライエントのリアリティに即して、いろんな理論の見立てを複合的に使って、どうやったら人っていうのは生きやすくなるだろう、どうしてこんな風になっちゃったんだろうって考えるのはさほど違和感はないですね。

 

④最近関心のあるトピックを教えてください

(喜多見)ではガラッと変わるんですけど、先生の現在関心のあるトピックなどおありでしょうか?確か先生は現在いろいろなお仕事をされていますので、その中からでも構わないんですけれども。

(藤田先生)仕事の話ではないんですけど、いかにリラックスできるか、いかに人生を楽しめるか、みたいなところですね(笑)。ぼくはわりかしスポーツや運動が好きなので、新聞もスポーツ欄から読むタイプで(笑)、リラックスとか癒されるという点では音楽のことなんかにも関心があります。

(喜多見)先生のごテーマは、なんというか、日々考えていると気持ちも重くなりがちなテーマですから、そういうのとも関係あるんでしょうか。

(藤田先生)うん、というかそういうのって人が人生を生きていく上で、支えになるところじゃないですか。

(喜多見)実践しながらということですね。

(藤田先生)そんな偉そうなことでもないんですけど(笑)、自分の中では関連がある感じがします。

 

⑤おすすめの本を教えてください

(喜多見)それではまた少し話が変わってしまうんですが、先生のお勧めの本はおありですか?

(藤田先生)読んですごい面白かったというか引き込まれたのは、「ブライス家の人々」。ぼくは基本的にあまり難しい本や分厚い専門書は読みたいと思わない方なんですけど(笑)。この本を読んだのはずっと前、それこそ家族療法に関心を持ち始めた時期に読んだんですけど、厚い本だから少しずつ読みましたが、次を読み進めるのがすごく楽しみでした。それとあともう一つは、特定の本というよりも、ミルトン・エリクソンのセミナーの本や、ミルトン・エリクソンが実際に語ったのを文章にしたような本はとても好きでした。

(喜多見)ミルトン・エリクソンからの影響も多く受けられたのでしょうか?

(藤田先生)もちろん影響を受けたのもあるんですけど、最初からのテーマとつながるところもあって、ミルトン・エリクソンって、人がどんなふうに癒されうるかとか、人がどんなふうに人生を前向きに生きていけるかというところをすごく考えているような気がして、そのためにいろんな手法を使っているんですよね。それが自分にとてもマッチするというか、おこがましいですけど、わかるというような感じもあって。それでこの本もとても惹かれて読みました。人によって合う合わないはあるんでしょうけれど、読んで損はない気がします。

 

⑥家族心理学・家族療法を学ぼうとしている学生や関心を持たれている方に一言

(喜多見)さまざまな心理療法の入り口として家族療法を学ぼうとしている学生っていると思うんです。そういう学生に何か一言ありますでしょうか。

(藤田先生)あまり偉そうなことを言える立場ではないと思いつつ‥(笑)。ぼくは基本的に入口が個人療法でしたので、家族療法をやるにしても、個人療法の基本的なスキルとか態度っていうのは必要だと思う。だからそこをぜひトレーニングしてくださいということと、ぼくは非行とか不登校とかの子どもとかに関わってきた経験が多いんですけど、そういう子どもたちの悩みとか問題ってほぼ100パーセント家族の中での苦しみとか不調とかなんですね。だから個人だけへのアプローチではどうにもならないケースが多いんです。だからこそ、家族の関係性に焦点を当てて、子どもたちの悩みとか不調とか困り感がどんなふうに形作られてきたかってことを知るのはとても大切だし必要なことだと思います。たとえ個人と会っていたとしても、家族の関係性を視野に入れて、問題や悩みを理解し援助するというアプローチは、これからの時代もう絶対に不可欠だと思います。だから皆さんがんばってください。この仕事ってひとりでできることって少ないんですよ。カウンセラー一人の力だけで、苦しんでいる相手を立ち直らせるっていうか、生きる希望を見出すことを助けるのには限界があって。だからこそ、この家族療法の領域に進もうとしている学生さんや皆さんにはとても期待しているっていうか、もう、すこしでも力になってくださいってお願いしたい感じです。

(喜多見)藤田先生ありがとうございました!

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